小さな木の家からはじまる暮らしの提案

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サンゲンカク

これまでの仕事の中で「木と土の家を建てたいけれど、この予算で」と言うクライアントには、要望より少し小さな家を提案してきた。家を小さくすることで、外が広がり、外とのつながりを生かせば、小さいながら心地よい家になる。基本となる空間を三間四方(18帖)で提案し、「サンゲンカク」と呼ぶことにした。そして、まわりにその家族に必要な機能を持つ空間「部品」を取り付けていく。下屋として、離れとして取り付くことで、内のような外のような曖昧な間が生まれ、光や風が通り、陰や日溜まりをつくり、木の家の暮らしを豊かなものにしてくれる。

規格化と多様性

徳島は、木材、特に杉の一大産地であり、林業、製材、加工、家具、建具など、昔から木に関する地場産業が多い。特に県南部は古くから梁桁に杉材が使われており、大工と林業家に杉のことを一から教わった。それ以来、土を塗り、杉を組みあらわした住宅の設計を行っている。木と土の家に住みたいという人は多く、地域産材と地域の技術で建てる家を特別なものにとどめることのないようにしたい。竣工までの期間を短縮し、平均的資金で建てられることが必要である。徳島杉の強度実験の破壊状態を見ると、大工の伝統仕口で組む材は天然乾燥が望ましいが、製材後3〜6ヶ月の乾燥期間がかかるので、木材の規格寸法を決め乾燥材をストックしておくことが有効である。主構造は四隅に通し柱を立て、継ぎ手のない6m通しの胴差、梁、桁で組み剛性を高めている。サンゲンカクなら少ない種類の部材で、多様な家づくりが可能である。

永く住み続けられる家

様々な敷地条件や住み手の要望に対応できるサンゲンカクは、これまで調査してきた民家の影響が大きい。小さくて心地よい漁村集落の民家、広い中庭を持つ野の民家、急斜面に石垣を積み等高線沿いの細長い敷地に並ぶ山の民家など。多雪地域と違い温暖な四国では、母屋のまわりに納屋、牛舎、便所、風呂、隠居屋、蔵などが分棟で敷地条件や生業によって様々に配置され成り立っている。蔵のようにしっかりとつくっているもの、水場の差し掛けのように簡単につくっているもの、同じ敷地内にあってもその用途によってつくり方は異なるが、どれも長い年月使われている。そして、室内は、襖などの建具で仕切られ、開け放したり閉じたりして、自由度が高い。

山のこと まちのこと

一軒の家が建っている間、子供の成長、親との同居、世代交代などにより、その家族の暮らしは様々に変化する。はじめは小さな家からスタートし、家族構成が変わったり傷みやすい水廻りを修理する時期に、その時々の暮らしに家を合わせていく。家は建てた時が完成ではなく、その後も住まい手と共に成長変化していくものだと考える。高度成長期に開発された住宅地は建て替えの時期も近いので、わずか5,6年で全く違う家並みになってしまうことが多いが、このように手を加えながら永く住み続けることができる家づくりなら、古いものと新しいものが混在し、豊かな町並みになっていくだろう。( 2005 ねぎしなるみ )

掲載誌

nqsKf7 住宅建築 2005年12月号
建築資料研究社「木の家とその暮らしを
提案する」
6P6BRI コンフォルトNo.90(2006年6月号)建築資料研究社「住宅はプロポーション」
A1z80o_2 2006 第3回「真の日本のすまい」提案競技 国土交通大臣賞

 

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| 2006「サンゲンカク_小さな木の家からはじまる暮らしの提案」 |